プロモーションビデオに社員出演時の肖像権、承諾って必要?弁護士に聞いてみた。

みなさん、こんにちは。
最近、お客様からこんな問い合わせを2件立て続けにいただきました。

「会社のPRビデオを作りたいんだけど、出演してもらう場合これって自社の社員に承諾とったほうがいいの?」

悩む社員

1件目は撮影の現場で社員の方からの相談でした。どうやら、その女性社員の方は「自分は動画に出演したくない」という考えのようでした。「仕事に消極的ではなく、動画に出演して人の目に触れるのが苦痛(苦手)であるようで、動画出演以外の事なら協力できる」とのこと。私にも直接口頭で「出たくない」と述べましたから、私からも「その思いは社長に伝えたほうがいいですよ。女性であればストーカーされる可能性もゼロではないし、本当に吐くほど気が乗らないのであればストレスにもなるでしょう。我慢しても体に良くないでしょうから、こういうのは基本話し合いです。」と伝えました。その後社長に伝え、出演を見直して貰ったそうです。

2件目は動画完成間際に経営層の方からの相談でした。上場企業のグループ会社という事もあり、社内でコンプライアンスの刷新があり確認が入ったようでした。口頭での協力依頼はしたようですが、「承諾」という形で同意をとってなかったようでした。上層部からの急な確認で混乱しており著作権と混同されているようお見受けしました。1時間ほど話をしましたが、動画を作り直すか社員の方に承諾を取り付けるかどちらかと提案しました。結果、働く人全員の同意を書面で得ることにしたようです。

人々の肖像権に対する意識はこの10年で大きく変わった。

相談のあったお二人にはお話ししたのですが、世の中は今「スマホで動画」の時代になっています。

お茶の間でTVを観るスタイルの方もまだいますが、スマホを片手にTVのない部屋で動画を視聴するスタイルの方も多いでしょう。スマホの登場で視聴スタイルの変化はもちろんのこと、スマホを持つという事は、皆がレンズを常に持つ時代。誰もが撮影できる時代は、誰もが撮影される時代でもあるのです。誰しもが動画やSNSの影響力を知っているのです。それはみんなの肖像権、著作権への意識を変えるきっかけになっていると言っても過言ではないでしょう。

スマホで撮影する人たち

昔は、私たちが取材先でレンズを向ければ恥ずかしながらも協力的に映ってくれましたが、今は違います。昔みたいに気軽に動画に映ってくれません。

会社紹介動画の大半は辞めた社員が映っている。

例えば、リクルート動画を作りたい。勤続年数の長いスタッフにインタビュー撮影した動画を編集してYouTubeで公開したい。そんな相談が弊社には全国からよくあります。

制作して納品した動画の中には、数年経つと動画に出演した人の何人かは辞めていたりします。写真であれば、差し替えれば無料で終了って事もありえるかもしれません。しかし「この人が辞めたから差し替えで再編集」と依頼しても動画編集は手間が掛かります。多くの場合、差し替えより削除の方が面倒です。(同業の方は共感いただけると思います。笑)少なからずお金は掛かります

大きな企業からすれば、そういうケースを考えて制作する事もあり定期的に作り変える前提もあると思いますが、多くの中小企業は一度動画を作ると何年も使い続けます。長く使って頂ける事は制作会社からすれば嬉しい事ですが、辞めた社員からしたら何年も使われても迷惑だから(そもそも違う会社に在籍があるので)使用の停止を求めたりする事もあるようです。

動画制作時の社員の肖像権について弁護士に相談してみた。

そこで火燵の顧問弁護士である善通寺法律事務所、髙丸雄介先生にこの辺りの事を聞いて見ました。

Q
企業紹介動画に社員を登場させる場合、撮影の際、その社員の承諾を得る必要がありますか?
A

社員が特定できる状態での撮影の場合、その社員の肖像権やプライバシー権を侵害してしまうおそれがあります。
一般的に、肖像権とは自己の姿態等をみだりに撮影されたり公表されたりしない権利、プライバシー権とは私生活をみだりに公開されない権利と言われています。肖像権もプライバシー権も法律に明文規定があるわけではなく、いずれも裁判所が認めた権利です。

質問のケースの場合、社員の承諾なく動画を撮影したり、撮影した動画を公表、使用したりした場合、その社員から肖像権やプライバシー権を侵害したと法的責任を追及されるおそれがありますので、事前にその社員から承諾を得ておくべきと言えます。

Q
承諾はどのように取ればいいですか?
A

私のお勧めは、口頭で説明の上、書面を残す方法です。
まず、よくわからないまま書類にサインした等と言われてしまうと、承諾が有効と言えるか怪しくなってしまう場合がありますので、社員に充分内容を理解させた上で承諾してもらう必要があります。そのためには、書類を渡すだけではなく、口頭で丁寧に説明することがリスクヘッジとして有用だと思います。また、承諾を得たことを書面に残すことで、承諾の有無に関するトラブルを回避することができます。あわせて、撮影した動画をどのように使用し、どれぐらいの期間使用するか等使用内容・範囲について、できる限り詳細に説明の上、承諾を得ておくことを強くお勧めします。

仮に、承諾を得ていたとしても、本人が思っていなかった態様で使用された場合、後にトラブルになることがあり得ます。本人の想定を超える態様で使用してしまった場合、承諾がなかったと判断されるおそれがあります。加えて、包括的に承諾を得た場合、承諾の範囲等を巡ってトラブルになるリスクがありますので、面倒でも撮影の都度承諾を得ておいた方がトラブルを未然に防ぐことになると思います。

Q
退職後、「私が映っている部分のみ使用するな」と言われた場合どうなりますか?
A

せっかく撮影した動画が社員の退職によって使用できなった場合、その期間や頻度によっては時間やコストのロスが大きくなり、負担が大きくなることから、そのような事態を企業が避けたいと考えることは当然のことだと思います。そこで、先ほどの回答と重複しますが、社員から承諾を得る際、仮に本人が退職したとしてもその動画は引き続き使用することについても承諾を得ておけば、このトラブルを回避できる可能性は高くなります。

もっとも、退職後も無期限に会社が無償で利用できるという承諾を得ていたとしても、自分が映っている動画が辞めた後もいつまでも使用されている場合、一般的には快く思わない場合が多いと思われますので、その承諾は無効と判断されるおそれがあります。そこで、企業としては、事前に承諾を得ることは当然として、仮に承諾を得ていたとしても、退職した社員から使用中止の要望が出された場合、その社員が映っている部分をできる限り修正したり、相当期間経過後には新しい動画を撮影し直したりするなど、その社員に最大限配慮することがリスクヘッジとして有用だと思います。

以上、いかがでしたでしょうか?
髙丸先生へのQ&Aでした。

肖像権等使用同意書テンプレート配布

今回は髙丸先生が監修した肖像権等使用同意書をダウンロードできるようにしておきます。

他にもネット上にダウンロードできるテンプレートのようなものはありますが書き方が強いものもあるので、火燵作成の物は現実的な範囲に留めています。

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肖像権等使用同意書を業務で使用した場合に発生する、あらゆる損害に関しては一切関与致しません

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